大判例

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福岡高等裁判所 昭和27年(ラ)35号 決定

本件抗告の要旨は「抗告人の名は、もともとその出生前、両親の相談で、生れる子が男ならば兼弘、女子ならば桃千代と命名することになつていたところ、男子たる抗告人出生の際、その届出手続の依頼を受けた近隣の片山某において、右出生の混雑に取り紛れ出生届書に誤つて女子名の桃千代と記載して届出をしたのである。その後、右誤記の事実が判明し、戸籍名を訂正しようとしたが、当時その方法はないとのことであつたため、抗告人はやむなく、戸籍名をそのままにし、日常生活一切において、兼弘という通称を使用し今日に至つたもので、これがため、公私の生活上著しい支障不便を来しており、しかも現在福岡市内所在常盤スレート工業株式会社の工場長として勤務する抗告人としては、男女の区別も困難な戸籍名のため、精神的にも大きな苦痛を感じているので、原裁判所に改名許可の審判を求めたところ、不当にも却下された。よつてここに原審判を取り消し、抗告人の名を兼弘と改名許可の決定を求める」というのである。

抗告人の桃千代という戸籍上の名は、名称自体女性を連想せしめるものであり、男子の名としては、むしろ珍奇に属するものであることは、現在の健全な社会通念に照し、容易に肯定し得るところであつて、記録によれば、抗告人は昭和十二年中学校卒業の頃より、通称として兼弘という名を使用し、現在に至るまで十数年の間、戸籍上の名を特に必要とする場合を除き、日常生活一切を右通称の下に過して来た事実を認めることができる。

そして以上の事実関係の下において、抗告人が前記戸籍上の名を変更しようとすることは、戸籍法第百七条第二項にいわゆる正当の事由ある場合に該当するものと解するのが相当で、抗告人の本件申立は理由があるというべきである。

然らば、右と見解を異にし、抗告人の本件申立を却下した原審判は不当で、本件抗告は理由があるから、家事審判規則第十九条第二項を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判官 野田三夫 川井立夫 天野清治)

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